九州の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——箱と線の並びではなく、事業の意図を映す設計図として
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九州の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——箱と線の並びではなく、事業の意図を映す設計図として

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九州の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——箱と線の並びではなく、事業の意図を映す設計図として

「うちの組織図、もう何年も変えていないんです。部長が定年退職しても、そのポジションに誰かを当てはめるだけ。正直、この組織図が事業に合っているのかどうか、考えたこともなかった」

熊本市の建材メーカーの社長がそう話してくれたとき、私は「組織図は単なる箱と線の配置ではなく、事業戦略を実現するための設計図です。そこから見直してみませんか」とお伝えしました。私はこれまで500社以上の企業で人事に携わってきましたが、組織図を「戦略的な意図を持って設計している」と言える九州の中小企業は、ごく少数です。

多くの中小企業では、組織図は「現状の追認」にとどまっています。人が増えたら部署を作り、人が辞めたら兼務させる。結果として、組織図は事業の方向性を反映したものではなく、過去の経緯の積み重ねになっています。

この記事では、九州の中小企業が組織図を戦略的な設計図として活用するための考え方と、具体的な設計の進め方を整理していきます。


なぜ組織図は「放置」されるのか

「人ありき」の組織設計

九州の中小企業で組織図が放置される最大の原因は、「人ありき」で組織を考えていることです。

「田中さんがいるからこの部署がある」「佐藤さんが営業部長だからこの構造になっている」——組織の形がそこにいる人に依存している状態です。この状態では、人が異動したり退職したりするたびに組織の形が変わりますが、それは戦略的な判断ではなく、人繰りの結果にすぎません。

福岡市の商社では、営業部に「第一営業課」「第二営業課」「第三営業課」がありましたが、その区分の基準は「課長のポストを3つ確保するため」でした。顧客セグメントでも、製品カテゴリーでも、地域でもない。単にポストの都合で組織が分かれていたのです。

組織設計のスキルが社内にない

もう一つの原因は、組織設計のスキルが社内にないことです。

大企業であれば、経営企画部門や人事企画部門が組織設計の専門性を持っています。しかし、中小企業では人事担当者が1〜2名というケースが多く、日々の採用や労務管理に追われて、組織設計まで手が回りません。

組織設計は、経営戦略、事業計画、人材配置、権限設計、コミュニケーション設計など、複数の領域にまたがる知識が必要です。これを一人で担うのは、確かに荷が重い。しかし、だからこそ基本的な考え方を押さえておくことが大切です。

「変えると混乱する」という恐怖

組織変更は社員に大きなインパクトを与えます。部署の名前が変わる、上司が変わる、業務の範囲が変わる——こうした変化に対する現場の抵抗感を恐れて、組織を変えることを避ける経営者は少なくありません。

大分市の食品加工会社の社長は、「本当は営業と製造の連携を強化したいが、組織を変えると現場が混乱する。だから今のままでいい」と話していました。しかし、「今のまま」でいることのコストを考えたことはあるでしょうか。事業環境が変わっているのに組織が変わらないことで、機会損失が生まれている可能性があります。


組織図の「戦略的設計」とは何か

事業戦略を組織の形に翻訳する

戦略的な組織設計とは、「事業戦略を組織の形に翻訳する」ことです。

事業戦略が「九州全域への販路拡大」であれば、組織は地域別の営業体制が合理的かもしれません。事業戦略が「製品の高付加価値化」であれば、研究開発部門と製造部門の連携を強化する組織が必要かもしれません。

重要なのは、「この組織の形は、どの戦略目標の達成を促進するのか」を説明できることです。説明できない組織の形は、戦略と切り離された「なりゆき」の結果です。

三つの設計原則

組織設計には、基本的な三つの原則があります。

第一に、「権限と責任の明確化」です。誰が何を決める権限を持ち、何に責任を負うのか。これが曖昧だと、意思決定が遅れ、責任の所在が不明確になります。

第二に、「情報の流れの設計」です。組織の中で、必要な情報が必要な人に届くように設計する。報告ラインだけでなく、部門横断的な情報共有の仕組みも含めて設計します。

第三に、「スパン・オブ・コントロールの適正化」です。一人の管理職が直接管理できる人数には限界があります。一般的には5〜8名程度が適正とされますが、業務の性質や管理職の能力によって異なります。


九州の中小企業に合った組織設計のパターン

機能別組織のメリットとデメリット

中小企業で最も一般的なのは、機能別組織です。営業部、製造部、管理部というように、機能ごとに部門を分ける形です。

メリットは、専門性の蓄積がしやすいこと。営業は営業のスキルを、製造は製造のスキルを深めることができます。また、組織の構造がシンプルで、社員にとって理解しやすいというメリットもあります。

デメリットは、部門間の壁が生じやすいこと。営業と製造の連携が弱くなり、顧客の声が製造現場に届かない、製造の制約を営業が理解しない、といった問題が起きます。

九州の製造業で多く見られるのが、このパターンです。50〜100名規模の企業であれば、機能別組織をベースにしつつ、部門間の連携を補完する仕組み(プロジェクトチーム、定期会議など)を設けるのが現実的です。

事業部制のメリットとデメリット

事業の多角化が進んでいる企業では、事業部制が有効な場合があります。製品やサービスごとに事業部を設け、各事業部が営業から製造まで一貫して担当する形です。

メリットは、事業ごとの損益が明確になること。各事業部長が自分の事業の採算に責任を持つため、経営者視点を持ったリーダーが育ちやすいという効果もあります。

デメリットは、各事業部に同じ機能(経理、人事など)が重複し、コストが増加すること。中小企業では人材が限られるため、完全な事業部制は人的リソースの面で難しいケースが多いです。

長崎市の水産加工企業では、「鮮魚事業部」と「加工品事業部」の2つの事業部を設けていますが、管理部門(経理・人事・総務)は共通にしています。この「ハイブリッド型」は、九州の中小企業の実態に合った形です。

マトリクス型の可能性

マトリクス型組織は、機能別と事業別を掛け合わせた組織です。社員が「機能」と「プロジェクト(または事業)」の二つの軸に属する形です。

大企業では一般的ですが、中小企業では複雑になりすぎるため、全面的な導入は推奨しません。ただし、部分的にマトリクスの要素を取り入れることは有効です。

例えば、通常の機能別組織をベースにしつつ、重要なプロジェクトについては部門横断チームを編成する。チームメンバーは元の部署に所属したまま、プロジェクトの業務も担当する。この「ゆるやかなマトリクス」は、中小企業でも運用可能です。


組織図設計の具体的な手順

ステップ1:事業戦略の確認

組織設計の出発点は、事業戦略の確認です。今後3年間で、会社としてどの方向に進むのか。どの事業を伸ばし、どの市場を攻めるのか。この問いに対する答えが、組織設計の土台になります。

経営者と人事担当者の間で事業戦略の理解がずれていることは珍しくありません。組織設計に取り組む前に、経営者と膝を突き合わせて事業戦略を確認することが重要です。

ステップ2:必要な機能の洗い出し

事業戦略を実現するために、組織にはどんな機能が必要かを洗い出します。

現在ある機能だけでなく、「今はないが将来必要になる機能」も含めて検討します。例えば、海外展開を計画しているなら貿易業務の機能が必要になる。EC事業を始めるならデジタルマーケティングの機能が必要になる。

佐賀市の食品メーカーでは、直販事業を強化する戦略を立てた際、それまでなかった「マーケティング機能」を組織に追加する必要がありました。ただし、専任の部署を作る余裕はなかったため、営業部の中に「マーケティング担当」というポジションを設ける形で対応しました。

ステップ3:権限と責任の設計

各部門・ポジションの権限と責任を明確にします。

「この部門長は何を決めてよいか」「この金額までの投資判断は誰が行うか」「このトラブルが起きたとき、最初に対応する責任は誰にあるか」——こうした問いに対する答えを明文化します。

権限と責任の設計で重要なのは、「権限と責任を一致させる」ことです。責任だけあって権限がない状態は、担当者のモチベーションを下げます。逆に、権限だけあって責任がない状態は、無責任な判断を招きます。

ステップ4:レポーティングラインの設計

誰が誰に報告するかのラインを設計します。これが組織図の「線」の部分です。

レポーティングラインは、できるだけシンプルにします。一人の社員が二人以上の上司を持つ「ダブルレポーティング」は、指示の矛盾や責任の曖昧さを招くため、中小企業では避けるべきです。

ステップ5:組織図の可視化とフィードバック

設計した組織図を可視化し、関係者からフィードバックを得ます。

組織図をドラフトとして経営陣に見せ、「この構造で事業戦略の実現が可能か」を確認します。次に、部門長クラスにも見せ、「この構造で日々の業務が回るか」を確認します。机上の設計だけでは見えない問題点が、フィードバックを通じて明らかになります。


組織図を「生きた設計図」にするために

定期的な見直しサイクル

組織図は一度設計して終わりではありません。事業環境の変化、人材の変動、戦略の変更に合わせて、定期的に見直す必要があります。

年に1回、事業計画の策定時期に合わせて組織図を見直すことをお勧めします。「来期の事業計画を実現するために、現在の組織図は適切か」という問いを毎年立てることで、組織図が事業戦略と乖離することを防げます。

組織変更のコミュニケーション

組織を変更する際は、社員へのコミュニケーションが極めて重要です。

「なぜ組織を変えるのか」「変更によって何が変わるのか」「社員にとってどんな影響があるのか」——これらを丁寧に説明することで、組織変更に対する抵抗感を軽減できます。

宮崎市のIT企業では、組織変更の2ヶ月前に全社員向けの説明会を開催し、変更の背景と意図を経営者自らが説明しました。さらに、変更後1ヶ月間は週次で「困りごと相談会」を開催し、現場の不安や課題に対応しました。この丁寧なコミュニケーションにより、組織変更後の混乱は最小限に抑えられました。

「人」と「ポスト」を分けて考える

組織設計で最も重要な考え方の一つは、「人」と「ポスト」を分けて考えることです。

まず「この組織にはどんなポストが必要か」を設計し、その後に「誰をそのポストに配置するか」を考える。この順番を守ることで、「人ありき」の組織設計から脱却できます。

もちろん、中小企業では「この人がいるからこの仕事ができる」という現実があります。理想的なポスト設計と、現実の人材配置の間にギャップがあることは珍しくありません。重要なのは、そのギャップを認識した上で、「将来的にはこのポストにこんな人材を配置したい」という目標を持つことです。


九州の企業の実例に見る組織設計

製造業A社(北九州市・従業員120名)のケース

A社は、機能別組織で運営していましたが、新規事業の立ち上げに際して組織を見直しました。

従来は「営業部」「製造部」「品質管理部」「管理部」の4部門でしたが、新規事業(環境関連製品)を既存の部門構造の中に組み込もうとしたところ、責任の所在が曖昧になりました。

そこで、新規事業については「環境事業推進室」を経営直轄で設置し、既存事業の部門構造とは別のラインとしました。推進室のメンバーは、営業、製造、品質管理からそれぞれ1〜2名を選出し、兼務の形で参加しています。

この設計により、新規事業の意思決定が迅速になり、事業化までのスピードが格段に向上しました。

サービス業B社(福岡市・従業員60名)のケース

B社は、急成長に伴い組織が追いつかなくなっていました。社長が全社員に直接指示を出す「社長直轄型」から脱却する必要がありました。

B社では、まず「社長の意思決定を代行できるポジション」として3名の事業部長を設置。次に、事業部長の下に課長ポストを設け、現場のマネジメントを委譲しました。

組織の階層を増やすことは、中小企業にとって抵抗がある場合が多いです。しかし、社長一人がすべてを管理する体制は、社長のボトルネック化を招き、事業の成長を阻害します。B社の社長は「自分がいなくても回る組織を作りたい」と語り、権限移譲を進めました。


組織図と向き合うことは経営と向き合うこと

組織図は、経営者の意図を可視化したものです。どんな事業を、どんな体制で、どこに向かって推進するのか。組織図にはそのすべてが表現されています。

九州の中小企業の多くは、組織図を「ただの見取り図」として扱っています。しかし、組織図を戦略の設計図として活用することで、事業の方向性と組織の形を一致させることができます。

組織図を見直すことは、経営を見直すことと同義です。現在の組織図が事業の現実を映しているか。将来の事業の姿に向けて、組織をどう設計し直すか。この問いに向き合うことが、九州の中小企業の次のステージへの第一歩になるはずです。

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