
九州の企業が外国人材の受け入れを成功させる方法——「人手の穴埋め」から「組織の多様性の力」への発想転換
九州の企業が外国人材の受け入れを成功させる方法——「人手の穴埋め」から「組織の多様性の力」への発想転換
「外国人を雇いたいけど、何から始めればいいかわからない」
鹿児島市の食品加工会社の社長が、正直にそう言いました。私はこれまで500社以上の企業で人事に携わってきましたが、九州の中小企業が外国人材の受け入れに踏み切る際に最も大切なのは、「なぜ外国人材を受け入れるのか」という目的を明確にすることです。「日本人が採れないから」という消極的な理由だけでは、受け入れは長続きしません。外国人材が組織にもたらす多様な視点、海外市場との接点、異文化からの学び——こうした「プラスの価値」を見据えた受け入れが、成功する外国人材活用の出発点です。
九州は外国人材の受け入れが活発な地域です。技能実習生の受け入れ数は全国的にも多く、特に農業、水産加工業、食品製造業、介護業界での受け入れが進んでいます。2023年からは特定技能の在留資格による長期的な外国人雇用の道も広がっています。しかし「受け入れている」ことと「活用している」ことは別です。受け入れた外国人材が組織の一員として活躍し、定着するためには、人事としての計画的な取り組みが不可欠です。
外国人材受け入れの現状と課題
制度の多様化
外国人材の受け入れに関わる在留資格は複数あります。技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務、高度専門職——それぞれ目的、期間、従事できる業務が異なります。どの制度を活用するかは、自社のニーズと外国人材のキャリアプランに応じて選択する必要があります。
言語の壁
日本語能力は外国人材の活躍を左右する最大の要因の一つです。しかし「日本語ができないから任せられない」と最初から諦めるのではなく、「どのレベルの日本語力が必要か」を業務ごとに定義し、必要なレベルに達するまでの支援計画を立てることが建設的です。
生活面のサポート
外国人材は、仕事だけでなく「日本での生活全般」に支援が必要です。住居の確保、銀行口座の開設、行政手続き、病院の受診——こうした生活面のサポートが不十分だと、仕事以前の段階でストレスが蓄積し、離職や帰国につながります。
受け入れ成功の5つのステップ
ステップ1:受け入れの目的と計画を明確にする
「なぜ外国人材を受け入れるのか」「何名を、いつまでに、どの部署で」「期待する役割と成果は何か」——これらを文書化することから始めます。
計画のポイント:
- 受け入れ人数と配置部署
- 必要な日本語レベルと業務スキル
- 受け入れに伴うコスト(渡航費、住居費、日本語教育費、監理団体費用等)の見積もり
- 受け入れ後の育成計画(3ヶ月・6ヶ月・1年の目標)
宮崎県都城市の畜産加工会社では、「3年間で技能実習生6名を受け入れ、加工ラインの即戦力として育成する。並行して、特定技能への移行を希望する人材には日本語N3レベルまでの教育を支援する」という計画を策定し、計画に基づいた受け入れを進めています。
ステップ2:受け入れ体制の整備
外国人材を受け入れる前に、社内の体制を整備することが重要です。
- 受け入れ担当者の指名:外国人材の窓口となる担当者を1名指名する。この担当者が、業務上の相談も生活上の相談も一元的に受ける
- 既存社員への事前説明:外国人材が加わることを事前に全社に共有し、「なぜ受け入れるのか」「どんな人が来るのか」「どんな配慮が必要か」を説明する
- 多言語マニュアルの整備:作業手順書、安全ルール、就業規則の要点を、外国人材の母語で用意する
- 住居の確保:会社が住居を手配するか、住居探しを支援する体制を作る
長崎県諫早市の半導体部品メーカーでは、ベトナム人技能実習生4名の受け入れに先立ち、全社員向けの「異文化理解研修」(2時間)を実施しました。ベトナムの文化、食習慣、宗教観、コミュニケーションの特徴を学ぶ内容です。「何も知らないで一緒に働くのと、少しでも知ってから一緒に働くのでは、関わり方が全然違う」という社員の声が出ています。
ステップ3:日本語教育の支援
外国人材の日本語力を高めることは、業務の生産性向上、安全管理、コミュニケーションの改善のすべてに直結します。
日本語教育の方法:
- 社内での日本語レッスン(週2回、各1時間。外部の日本語教師を招く)
- オンライン日本語学習サービスの法人契約
- 日本人社員との「ランチバディ」制度(昼食を一緒に取りながら日常会話を練習する)
- 業務で使う専門用語リストの作成(母語と日本語の対訳)
熊本県菊池市の食品加工会社では、技能実習生5名に対して週2回の日本語レッスンを提供しています。レッスンのコストは月額約4万円(講師料)。1年間で実習生の日本語力はN4からN3レベルに向上し、品質トラブルの報告が口頭でできるようになったことで、不良品の発見速度が向上しました。
ステップ4:業務スキルの育成
外国人材の業務スキル育成は、日本人社員と基本的に同じアプローチで進めますが、言語面の配慮が追加で必要です。
育成のポイント:
- 「見せる→やらせる→確認する」の3ステップを徹底する
- 口頭の説明だけでなく、写真・イラスト付きのマニュアルを活用する
- 理解度の確認は「わかりましたか?」ではなく「今教えたことを説明してください」と具体的に行う(「わかりましたか?」に対しては、わかっていなくても「はい」と答える文化がある国が多い)
- 段階的に難易度を上げ、小さな成功体験を積み重ねる
大分県臼杵市の醤油メーカーでは、インドネシア人特定技能者2名に対して、「スキルチェックシート」を活用した育成を行っています。各工程の習得状況を5段階で評価し、月1回の面談で進捗を確認する。「何ができるようになったか」が可視化されることで、本人のモチベーションが向上し、指導する側も「次に何を教えるか」が明確になっています。
ステップ5:定着のための生活支援とコミュニティ接続
外国人材の定着には、仕事だけでなく「日本での生活の質」を支えることが必要です。
- 生活オリエンテーション:入国後の最初の1週間で、ゴミの出し方、交通ルール、買い物の仕方、病院の使い方を案内する
- 相談窓口:業務上の悩みだけでなく、生活上の悩み(ホームシック、対人関係、金銭問題)も相談できる窓口を用意する
- コミュニティ接続:地域の外国人コミュニティ、国際交流協会、同国出身者のネットワークを紹介する
- 母国の文化・習慣の尊重:宗教的な食事制限、祈りの時間、母国の祝日への配慮
佐賀県唐津市の水産加工会社では、ベトナム人実習生3名のために、年2回のベトナム料理パーティーを社内で開催しています。実習生が母国の料理を作り、日本人社員と一緒に食べる。「食を通じたコミュニケーション」が、文化の壁を低くし、職場の一体感を高めています。
外国人材活用の経営効果
外国人材の受け入れを「コスト」ではなく「投資」として評価するために、経営数字で整理します。
受け入れにかかるコスト(技能実習生1名あたり年間概算)
- 監理団体への管理費:年間約36万円
- 日本語教育費:年間約24万円
- 住居手配(会社が社宅を用意する場合):年間約36万円
- 生活支援の工数:年間約15万円
- 合計:約111万円(報酬は別途)
外国人材が生み出す価値
- 生産ラインの人員充足による生産量維持:欠員1名あたりの機会損失は月間50〜100万円
- 技能実習生から特定技能への移行による長期雇用の実現:採用・育成コストの再発防止
- 多様な視点による改善提案:年間数件の改善効果(1件あたり10〜50万円の効果)
年間111万円の追加コストで、生産ラインの安定稼働(年間600〜1,200万円相当の機会損失回避)を実現できるのであれば、投資対効果は明確です。
九州から発信する外国人材活用のモデル
九州は、地理的にアジアに近く、外国人材との共生の歴史も長い地域です。福岡のアジア留学生、熊本の半導体関連で働く海外エンジニア、沖縄の米軍基地周辺の多文化環境——多様性を受け入れる土壌が、他の地方よりも豊かにあります。
外国人材の受け入れは、「人手の穴埋め」ではなく、組織に新しい力をもたらす戦略的な取り組みです。適切な計画と支援のもとで受け入れた外国人材が、組織の一員として活躍し、事業の成長に貢献する。---
外国人材の受け入れにおける法的リスクの管理
外国人材の受け入れには、在留資格に関する法令遵守が不可欠です。法令違反は企業にとって重大なリスクになります。
注意すべきポイント
- 在留資格の種類に応じた就労範囲の遵守(技能実習と特定技能では従事できる業務が異なる)
- 在留期限の管理(期限切れの状態で就労させることは不法就労となる)
- 適切な労働条件の確保(日本人社員と同等以上の報酬、社会保険の加入)
- 監理団体との適切な連携(技能実習制度の場合)
長崎県佐世保市の水産加工会社では、外国人材の在留期限と就労状況をExcelで一元管理し、期限の3ヶ月前にアラートが出る仕組みを構築しています。「うっかり期限切れ」を防ぐ基本的な管理が、法令遵守の第一歩です。
また、外国人材の受け入れに精通した行政書士や社会保険労務士との顧問契約を結んでおくことも推奨します。月額2〜5万円程度のコストで、法的リスクを大幅に軽減できます。
その姿を九州の企業から発信していくことが、地域全体の活力を高める力になります。
もっと深く学びたい方へ
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