
九州の企業がダイバーシティ推進で事業成長につなげる実践——「良いことだから」ではなく「事業に効くから」やる
目次
九州の企業がダイバーシティ推進で事業成長につなげる実践——「良いことだから」ではなく「事業に効くから」やる
「ダイバーシティって、うちみたいな田舎の会社にも必要なんですか」
大分県別府市の旅館経営者から、率直にそう聞かれたことがあります。私は500社以上の企業の人事に携わってきましたが、ダイバーシティ(多様性)推進に対する誤解は根深い。「東京の大企業がやること」「CSRの一環」「人権の話」——こうした認識が、九州の中小企業では特に強い傾向があります。
しかし私が提案するダイバーシティ推進は、「良いことだから」という理由ではなく、「事業を伸ばすために必要だから」という理由で取り組むものです。人材の多様性が事業の成長に直結する——そのメカニズムを理解し、実践に落とし込むことが、九州の企業にとっての本当のダイバーシティ推進です。
なぜ九州の企業にダイバーシティが必要なのか
九州の企業が置かれている経営環境を冷静に見れば、ダイバーシティが「あったらいいもの」ではなく「なければ困るもの」であることがわかります。
人材プールの拡大の必要性
九州の中小企業の多くは、深刻な人手不足に直面しています。しかし「日本人・男性・新卒・フルタイム」という従来の採用ターゲットだけを見ていては、人材プールは縮小する一方です。女性、シニア、外国人、障がい者、中途採用者、パート・時短勤務者——採用ターゲットを広げることが、人手不足への現実的な対応策です。
市場の多様化への対応
九州の企業が向き合う市場は、急速に多様化しています。インバウンド観光客、在日外国人のコミュニティ、多様なライフスタイルの消費者——こうした多様な顧客に対応するには、組織内にも多様な視点が必要です。
別府市の旅館では、外国人スタッフを雇用したことで、「外国人宿泊客が求めるサービス」について社内で議論が活発になり、インバウンド向けのプラン開発につながりました。外国人スタッフの視点がなければ、このプランは生まれなかったでしょう。
イノベーションの源泉
同質的な組織では、同じような発想しか生まれません。多様なバックグラウンドを持つ人材が集まることで、異なる視点がぶつかり合い、新しいアイデアが生まれる。これは理想論ではなく、多くの研究で実証されている事実です。
九州の企業でダイバーシティが進まない理由
理由1:「うちには関係ない」という認識
「ダイバーシティは大企業の話」「外国人がいない地域で多様性と言われても」——こうした声は、九州の中小企業では珍しくありません。しかしダイバーシティは外国人の雇用だけを指すのではありません。年齢、性別、働き方、キャリアの多様性を含む幅広い概念です。
理由2:同質性への安心感
九州の企業文化には、「同じ言葉を話す、同じ背景を持つ人と一緒に働くことの安心感」が強く存在します。地元出身者が多い職場では、共通の話題や慣習があり、コミュニケーションコストが低い。この「心地よさ」が、多様性を受け入れることへの無意識の抵抗を生んでいます。
理由3:推進の方法がわからない
「ダイバーシティが大事なのはわかったが、具体的に何をすればいいのか」——この問いに答えられる人が社内にいないことが、推進の最大の障壁です。
事業成長につなげるダイバーシティの4つの実践
実践1:女性の活躍推進——「制度を作る」だけでは不十分
九州の企業において最も取り組みやすく、かつ効果が大きいのが、女性の活躍推進です。
九州の中小企業では、女性社員が事務職に偏り、管理職に女性がいないという状態が一般的です。「女性管理職比率を上げましょう」という目標を掲げること自体は意味がありますが、それだけでは変わりません。
まず取り組むべきは、「なぜ女性が管理職になっていないか」の原因分析です。
- 管理職になりたくない(長時間労働のイメージ)
- 管理職にさせてもらえない(上司のバイアス)
- 管理職に必要な経験を積む機会がない(機会の不平等)
福岡市の商社では、女性社員向けの「リーダーシップ開発プログラム」を3年間実施しました。年間6回のワークショップ(リーダーシップ論、プレゼンテーション、経営数字の読み方等)と、経営層によるメンタリングを組み合わせたプログラムです。3年間で参加者12名のうち4名が管理職に昇進し、女性管理職比率は5%から18%に向上しました。
注目すべきは、女性管理職が担当するチームの業績が平均を上回っていたことです。多様な視点によるきめ細かい顧客対応、チーム内のコミュニケーション改善——こうした効果が業績に反映されていました。
実践2:外国人材の戦略的活用
九州では、技能実習生や特定技能の在留資格で働く外国人材が増加しています。しかし多くの企業が、外国人材を「安い労働力」として捉えており、戦略的に活用できていません。
外国人材をダイバーシティの観点から戦略的に活用するポイント:
- 母国の市場知見を活かした海外展開の検討
- 多言語対応の強化(インバウンド対応、海外取引先との窓口)
- 異文化の視点による社内プロセスの見直し
- 外国人材のキャリア開発(単なる作業者ではなくチームの一員として育てる)
熊本県菊池市の食品加工会社では、ベトナム人技能実習生3名を「単なる現場作業者」ではなく「品質改善チームの一員」として位置づけ、改善提案ミーティングへの参加を促しました。言語の壁はありましたが、翻訳アプリを活用しながら、ベトナムの食品加工の知見を共有してもらったところ、包装工程の改善提案が生まれ、年間約50万円のコスト削減につながりました。
実践3:シニア人材の活用
九州の中小企業では、65歳以上のシニア人材が重要な戦力として活躍できる余地が大きい。特に技術承継の文脈では、定年後のシニア人材が「教える側」として組織に貢献できます。
ポイントは、シニア人材を「若手と同じ働き方」で雇用するのではなく、シニアの体力・健康・ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を設計することです。
- 週3〜4日の短日勤務
- 午前中のみの短時間勤務
- 体力的に負担の少ない業務への配置
- 技術指導やアドバイザー的な役割
宮崎市の機械メーカーでは、定年退職した技術者2名を「技術指導員」として再雇用しました。週3日・1日5時間の勤務で、月額報酬は15万円。2名の技術指導員が若手技術者の育成を担当した結果、若手の技術習得期間が平均で6ヶ月短縮されました。
実践4:障がい者雇用の拡大
法定雇用率を満たすためだけに障がい者を雇用するのではなく、障がい者が持つ能力を事業に活かす視点が重要です。
佐賀市の印刷会社では、知的障がいのある社員4名が検品工程を担当しています。細かい作業の正確さに優れた特性を活かし、印刷物の検品精度が向上。クレーム率が前年比30%低下し、品質管理コストの削減にもつながっています。
障がい者雇用においても、「この人に何ができるか」ではなく「この人の強みを活かせる仕事は何か」という視点で考えることが、事業へのプラスの効果を生みます。
ダイバーシティを組織に根づかせるマネジメント
多様な人材を採用しただけでは、ダイバーシティは機能しません。多様な人材が「活躍できる」環境を作ること——これが「インクルージョン(包摂)」の考え方です。
心理的安全性の確保
多様な意見が出るためには、「違う意見を言っても大丈夫」という心理的安全性が必要です。同質的な組織では暗黙の了解で物事が進みますが、多様な組織では「言わなければ伝わらない」ことが増えます。
管理職が率先して「異なる意見を歓迎する」姿勢を示すことが、心理的安全性の第一歩です。
無意識バイアスへの対処
「女性は管理職に向かない」「外国人には責任ある仕事を任せられない」「シニアは新しいことを覚えられない」——こうした無意識のバイアスが、多様な人材の活躍を妨げます。
無意識バイアス研修を年1回実施することを推奨します。重要なのは「バイアスを持っている自分を責める」のではなく、「バイアスの存在を認識した上で、判断を修正する」というアプローチです。
福岡県北九州市の自動車部品メーカーでは、管理職20名を対象に無意識バイアス研修を実施しました。研修後のアンケートで、85%の管理職が「自分のバイアスに気づいた」と回答し、その後の人事評価において「性別による評価差」が統計的に有意に縮小しました。
柔軟な働き方の仕組み
多様な人材が活躍するためには、多様な働き方を認める仕組みが必要です。フルタイムだけでなく、短時間勤務、週4日勤務、リモートワーク、時差出勤——こうした選択肢を用意することで、育児中の親、介護中の社員、シニア、外国人など、さまざまな事情を持つ人が「この会社で働ける」と感じられるようになります。
経営数字で測るダイバーシティの効果
ダイバーシティ推進の効果を経営者に示すためには、定量的な指標が必要です。
以下の指標を継続的に追跡することを推奨します。
- 人材プールの拡大度:応募者数の推移(属性別)
- 採用コストの変化:多様な採用チャネルによるコスト効率
- 離職率の変化:属性別の離職率推移
- 生産性指標:チーム別・部門別の売上・利益
- イノベーション指標:新規事業・新商品の件数
- 顧客満足度:多様な顧客セグメント別の満足度
これらの指標を半年ごとに経営会議で報告し、ダイバーシティ推進の投資対効果を可視化する。「良いことをしている」ではなく「事業にこれだけ貢献している」という報告ができれば、経営者の理解と投資が得られます。
九州からダイバーシティの新しいモデルを
九州の企業がダイバーシティを推進する際に、東京の大企業のモデルをそのまま真似る必要はありません。むしろ、九州ならではの文脈——地域コミュニティの密度、異文化接触の機会(アジアとの近接性、在日外国人コミュニティ)、多様な産業構造——を活かしたアプローチが効果的です。
ダイバーシティは、「やらなければならないこと」ではなく、「やれば事業が強くなること」です。この発想の転換が、九州の企業のダイバーシティ推進を加速させる鍵になります。
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