九州の建設業が人手不足を乗り越えるための組織開発——現場を回すだけでなく、組織を育てるという発想
組織開発

九州の建設業が人手不足を乗り越えるための組織開発——現場を回すだけでなく、組織を育てるという発想

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九州の建設業が人手不足を乗り越えるための組織開発——現場を回すだけでなく、組織を育てるという発想

「人がいない。でも仕事は減らない」

九州の建設業の現場で、これほどよく聞く言葉はありません。私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、建設業の人手不足は他の業種と比べても深刻さのレベルが違います。技能労働者の高齢化、若者の業界離れ、そしてインフラ更新や自然災害復旧の需要増——需要と供給のギャップが年々広がっています。

しかし「人が足りないから何とかしてほしい」という相談に対して、私が最初に考えるのは「採用を増やすこと」ではなく、「今の組織をどう変えれば、少ない人数でも回る仕組みを作れるか」ということです。これが「組織開発」の発想です。

九州は建設需要が旺盛な地域です。熊本のTSMC関連施設の建設、福岡市の天神ビッグバンをはじめとする再開発、各地のインフラ老朽化対策、そして毎年のように発生する豪雨災害の復旧工事。仕事がなくなることは当面ありません。しかし人材は確実に減っていく。この構造的な矛盾にどう向き合うかが、九州の建設業の存続を左右する問いです。


九州の建設業における人手不足の実態

建設業の就業者数は、全国的にピークだった1997年の約685万人から、大幅に減少しています。九州でも同様の傾向が続いており、特に技能労働者の高齢化が著しい。55歳以上の就業者が全体の約35%を占める一方、29歳以下は約10%程度にとどまっています。

この数字が意味するのは、「10年後に現場の中核を担っていた層が大量に退職し、その穴を埋める若手がいない」という事態です。

福岡市の総合建設会社の人事部長は、「今年の新卒採用は定員10名に対して応募が15名だったが、内定辞退が5名出て、入社したのは8名。そのうち2名が1年以内に退職した」と嘆いていました。採用自体が難しい上に、入社してもすぐに辞めてしまう。この二重苦が建設業の人手不足を加速させています。


なぜ「採用」だけでは解決できないのか

人手不足に対する最も直感的な対応は「もっと採用する」ことです。しかしこの発想には限界があります。

理由1:求職者の絶対数が減っている

建設業を志望する若者の数自体が減っています。工業高校の建設系学科の入学者数は減少傾向にあり、建設業を選択肢に入れる大学生も限られています。パイが縮小する中で採用競争を繰り広げても、一社の採用増は他社の採用減を意味するだけで、業界全体の問題は解決しません。

理由2:採用しても育成に時間がかかる

建設業の技能は一朝一夕には身につきません。一人前の職人になるまでに5〜10年かかると言われています。今日採用した人が現場を任せられるようになるのは、何年も先の話です。

理由3:既存社員の離職が止まらない

新しい人を採用しても、既存の社員が離職していけば、組織の戦力は増えません。建設業の離職率は全産業平均よりも高い水準にあり、特に入社3年以内の若手の離職が目立ちます。

だからこそ、「採用」と並行して、あるいは「採用」に先立って、組織そのものを変えていく必要があるのです。


組織開発のアプローチ:4つの施策

施策1:多能工化による柔軟な人員配置

建設現場では、専門工種ごとに人員が配置されます。鉄筋工は鉄筋の仕事しかしない、型枠工は型枠の仕事しかしない——この「縦割り」が、人員配置の硬直性を生んでいます。

一人の技能者が複数の工種を担当できる「多能工」を育成することで、少ない人数でも現場を回せるようになります。

大牟田市の建設会社では、入社3年目以降の若手社員に対して、年間2つの工種のクロストレーニングを義務付けています。鉄筋工のスキルを持つ社員が型枠の基礎を学び、型枠工がコンクリート打設の技能を身につける。完全な多能工を目指すのではなく、「隣の工種を手伝えるレベル」で十分です。

この取り組みの結果、繁忙期の人員調整が柔軟になり、外注依存度が15%低下しました。外注費の削減額は年間で約800万円。一方、クロストレーニングにかかるコスト(研修時間の工数、指導者の負担)は年間約200万円。投資対効果は明確です。

施策2:ICT活用による生産性向上

建設業のICT活用は、「人を減らす」ためではなく「少ない人数でより多くの成果を出す」ために進めるものです。

ドローンによる測量、BIM(Building Information Modeling)による設計・施工管理、ICT建機による自動施工——こうした技術を導入することで、これまで10人で行っていた作業を7人で遂行できる可能性があります。

北九州市の土木会社では、ドローン測量を全現場に導入した結果、測量にかかる時間が従来の3分の1に短縮されました。浮いた時間を他の作業に振り向けることで、1現場あたりの必要人員を2名削減できたそうです。

ICT導入の初期投資は決して小さくありません。ドローン一式で約50万円、BIMソフトのライセンスで年間約100万円、ICT建機のレンタル費用は通常建機の1.3〜1.5倍。しかし人件費削減効果と生産性向上効果を考えれば、2〜3年で投資回収が可能なケースが多い。

ここで人事が果たすべき役割は、ICTを活用できる人材の育成計画を立てることです。「ICTを導入したのに使いこなせる人がいない」という状態にならないよう、導入スケジュールと育成スケジュールを連動させることが重要です。

施策3:働き方改革による定着率の向上

建設業の労働環境は、他の産業と比較して厳しい面があります。長時間労働、屋外作業による身体的負荷、天候に左右されるスケジュール。2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、「働き方を変えなければ法令違反になる」という現実が突きつけられています。

しかしここで重要なのは、法令遵守を「制約」として捉えるのではなく、「組織を変えるきっかけ」として活用することです。

佐賀市の建設会社では、週休2日制を全現場に導入しました。当初は「工期に間に合わない」「クライアントが許さない」という反発がありましたが、工程管理の見直しと段取りの改善によって、週休2日でも工期を守れることが証明されました。さらに、「週休2日の建設会社」という評判が広まり、新卒採用の応募者数が前年比40%増加しました。

週休2日制の導入による人件費増加は、残業代の削減と新規受注の増加(評判向上による引き合い増)で相殺されました。短期的にはコスト増に見えても、中期的には「人が集まる会社」になることの価値が上回ります。

施策4:現場のコミュニケーション改革

建設現場は、階層的なコミュニケーション構造を持っています。現場監督→職長→技能労働者という指示系統が明確で、「上から下への指示」が基本です。この構造は効率的ですが、「下から上への情報」が伝わりにくいという問題があります。

若手が「この作業手順はおかしいのでは」と思っても、「親方に逆らえない」という空気があれば、改善提案は生まれません。安全上の懸念を感じても、「言い出しにくい」という雰囲気があれば、事故のリスクが高まります。

久留米市の建設会社では、月1回の「改善提案ミーティング」を導入しました。現場の全員が参加し、「こうしたらもっと効率的になる」「ここが危ない」という提案を自由に出せる場です。提案は匿名でも可能にし、採用された提案には1件あたり500〜3,000円の報奨金を付けています。

導入1年目で87件の提案が出され、うち42件が実際に採用されました。安全面の改善提案が実行された結果、労災事故件数が前年比30%減少。これは保険料の低下にもつながり、年間で約150万円のコスト削減効果が出ています。


若手が「入りたくなる」建設会社の条件

組織開発の成果は、採用にも波及します。「この会社は変わっている」「他の建設会社とは違う」という評判が、若手の採用を後押しします。

では、若手が建設会社に何を求めているのか。私がこれまで面談した若手技能者の声から浮かび上がるのは、以下の要素です。

1. 明確な成長のロードマップ

「3年後にどんなスキルが身につくか」「5年後にどんな仕事を任せてもらえるか」——こうした見通しが欲しいという声が最も多い。「背中を見て覚えろ」では、いつ一人前になれるのかわかりません。

2. 安全と健康への真剣な取り組み

建設現場は危険を伴う職場です。「安全を最優先にしている会社」は、若手にとって大きな安心材料です。逆に、「安全よりも工期を優先する空気がある」と感じた瞬間に、若手は離職を考え始めます。

3. 正当な報酬と評価

建設業の賃金は上昇傾向にありますが、長時間労働を含めた時給換算で見ると、他の業種と比較して競争力があるとは言い切れません。「残業代込みでようやく生活できる」状態から脱し、「適正な労働時間で十分な報酬を得られる」状態を作ることが求められています。

4. 働き方の柔軟性

週休2日、有給休暇の取得しやすさ、天候不良時の対応——こうした「当たり前」が当たり前になっていない建設業の現状を改善することが、若手の採用と定着の前提条件になっています。


経営者との対話:組織開発を「投資」として説明する

組織開発の施策は、短期的には目に見える売上増につながりません。だからこそ、経営者に対して「なぜこれが必要で、いくらかかって、どんなリターンがあるか」を数字で説明することが不可欠です。

たとえば、以下のような対話です。

「現在の年間離職率は18%で、毎年15名が退職しています。採用・育成のコストは1名あたり約200万円なので、年間3,000万円が離職コストとして失われています。組織開発の施策(多能工化研修・働き方改革・コミュニケーション改善)に年間500万円を投資し、離職率を12%に下げることを目標にします。6%の離職率低下は約5名の離職防止に相当し、コスト削減効果は年間1,000万円。投資回収は半年です」

この計算が正確かどうかは、実行してみなければわかりません。しかし「仮説を持って投資し、結果を測定し、改善する」というサイクルを回すこと自体が、建設業の人事において新しい取り組みであり、経営者にとっても新鮮な提案になります。


九州の建設業の未来を組織開発から変える

九州の建設業は、これからも社会インフラを支える不可欠な存在であり続けます。TSMC関連施設の建設、福岡の都市再開発、道路・橋梁の維持補修、防災インフラの整備——仕事は山ほどあります。

問題は、その仕事を担う「人」と「組織」をどう維持し、育てていくかです。

組織開発は、派手な施策ではありません。地道な取り組みの積み重ねです。しかしその積み重ねが、5年後・10年後の組織の姿を決定的に変えます。「人がいないから仕事を断る」のではなく、「少ない人数でもしっかり回る組織を作り、人が集まる会社に育てる」——この発想の転換が、九州の建設業の未来を変える鍵です。


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