
九州の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法——「会社の外に出て初めてわかること」が組織を強くする
九州の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法——「会社の外に出て初めてわかること」が組織を強くする
「うちの若手が副業をしたいと言ってきたんですが、正直どう対応していいかわかりません。許可したら他の会社に取られるんじゃないかと不安で」
大分市の食品メーカーの総務部長が、戸惑いを隠さずにそう打ち明けてくれました。私はこれまで500社以上の企業で人事に携わってきましたが、副業・兼業に対する九州の中小企業の反応は、大きく二つに分かれます。「絶対にダメ」と門前払いする企業と、「やってみたいけど怖い」と腰が引けている企業です。
副業・兼業を解禁する企業は全国的に増えています。厚生労働省も2018年にモデル就業規則を改定し、副業・兼業を原則容認する方向に舵を切りました。しかし九州の中小企業では、いまだに副業・兼業を就業規則で禁止している企業が多数派です。
「社員が副業を始めたら、本業がおろそかになるのではないか」「うちのノウハウが外に漏れるのではないか」——こうした懸念は理解できます。しかし、適切に設計された副業・兼業制度は、社員のスキルアップ、人材確保、組織の活性化といった多くのメリットをもたらす可能性があります。
この記事では、九州の企業が副業・兼業制度を導入する際のポイントと、そのメリットを最大化する方法を考えていきます。
なぜ今、副業・兼業が注目されるのか
働き方の多様化
「一つの会社に一生勤める」という働き方モデルは、すでに過去のものになりつつあります。特に20〜30代の若手社員にとって、副業は「当たり前の選択肢」です。副業を認めない企業は、それだけで採用において不利になる時代が来ています。
人材不足への対応
九州の中小企業は慢性的な人材不足に悩んでいます。フルタイムの正社員を採用するのが難しい場合、他社の社員に「副業人材」として参画してもらう方法があります。逆に、自社の社員が副業を通じて外部のスキルや人脈を獲得し、本業に還元してくれれば、採用コストをかけずに組織の能力が向上します。
社員のキャリア自律
副業を通じて新しいスキルや経験を積む社員は、キャリアの選択肢が広がります。「この会社でしか通用しない人材」ではなく「どこでも通用する人材」に成長することで、社員自身の市場価値が上がる。そして、市場価値が高い社員が「それでもこの会社で働きたい」と思える組織を作ることが、中小企業の目指すべき姿だと私は考えています。
副業・兼業制度の設計
制度設計の3つの型
副業・兼業制度には、企業の方針に応じていくつかの型があります。
型1:届出制
副業を行う場合は、事前に会社に届け出る。届出内容を確認し、問題がなければ認める。最も一般的な型です。
型2:許可制
副業を行う場合は、事前に会社に申請し、許可を得る。会社側が内容を審査し、適切と判断した場合のみ許可する。慎重に進めたい企業向けです。
型3:自由制
副業は完全に自由。届出も不要。ただし、競合他社での勤務や、本業に支障をきたす場合のみ制限する。先進的な企業が採用している型です。
九州の中小企業が初めて副業制度を導入する場合は、「許可制」から始めるのが現実的です。運用に慣れてきたら「届出制」に移行する、という段階的なアプローチが安全です。
ルール設計のポイント
副業・兼業制度を導入する際に、最低限定めるべきルールは以下の通りです。
- 競合他社での勤務の禁止:自社と直接競合する企業での副業は、利益相反の観点から禁止する
- 秘密保持義務:自社の機密情報を副業先に持ち出さないことを明文化する
- 労働時間の管理:副業先での労働時間を含めた総労働時間が、過労にならないよう管理する
- 業務への影響禁止:副業によって本業のパフォーマンスが低下しないことを条件とする
- 届出・報告の義務:副業の内容、勤務先、労働時間を定期的に報告させる
福岡市博多区のIT企業では、副業制度を「許可制」で導入し、以下の書類を提出させています。
- 副業先の企業名と業務内容
- 想定される勤務時間(月間)
- 本業への影響がないことの自己申告
- 秘密保持に関する誓約書
この書類をもとに人事部と直属の上司が審査し、問題がなければ許可する仕組みです。
副業・兼業がもたらすメリット
メリット1:社員のスキルアップ
副業を通じて、本業では得られないスキルや経験を積むことができます。例えば、製造業の社員がIT企業で副業することで、デジタルスキルを身につけて本業に活かす。営業職の社員がNPOで副業することで、社会課題の視点を本業の企画に反映する。
熊本市の建設会社では、技術職の社員が個人でウェブサイト制作の副業を始めた結果、社内のDX推進プロジェクトで中心的な役割を果たすようになりました。「副業で身につけたスキルが、まさか本業でこんなに役に立つとは思わなかった」と本人も驚いています。
メリット2:人材の流出防止
副業を禁止している企業から、副業を認めている企業へ転職するケースは増えています。逆に言えば、副業を認めることで、「転職しなくても新しいことに挑戦できる」という選択肢を社員に提供でき、離職防止につながります。
メリット3:外部ネットワークの獲得
副業を通じて社員が築く外部の人脈は、自社にとっても貴重な資産です。新しいビジネスチャンス、採用候補者の紹介、業界の最新動向——社員の外部ネットワークを通じて、自社だけでは得られない情報やつながりが組織に流入します。
メリット4:副業人材の受け入れ
自社の社員が外で副業するだけでなく、外部の人材を「副業人材」として受け入れることも視野に入れます。東京の大企業に勤めながら、九州の中小企業で副業として専門スキルを提供する——こうした新しい働き方が広がっています。
宮崎市の農業法人では、東京のIT企業に勤めるマーケティング専門家を「副業人材」として月20時間受け入れています。ECサイトの改善やSNS戦略の立案を担当してもらっており、月額10万円という正社員採用に比べて格段に低いコストで、専門的なスキルを活用できています。
導入時に経営者が持つ不安への対応
不安1:本業がおろそかにならないか
副業の労働時間を上限設定し(例:月20時間以内)、定期的な業績チェックで本業への影響を確認します。本業のパフォーマンスが低下した場合は、副業の一時停止を求めるルールを設けておきます。
不安2:情報漏洩のリスク
秘密保持誓約書の締結、競合他社での副業禁止、定期的なコンプライアンス研修で対応します。ただし、過度に制限をかけすぎると制度が形骸化するため、リスクと自由度のバランスを取ることが大切です。
不安3:他の社員の不公平感
副業を認められた社員と認められない社員の間に不公平感が生じないよう、制度のルールを全社に明確に開示します。誰でも条件を満たせば申請できることを周知し、透明性を担保します。
佐賀市の建材会社では、副業制度の導入時に全社員向け説明会を開催し、「なぜこの制度を導入するのか」「どういうルールで運用するのか」を丁寧に説明しました。説明会後の質疑応答で出た懸念に一つずつ回答したことで、社員の理解が深まり、スムーズな導入につながりました。
副業制度を「組織の力」に変えるために
副業制度を単に「社員の自由を認める」だけでなく、「組織の力を高める仕組み」として設計するポイントを整理します。
副業で得た知見の共有
副業を通じて得たスキルや知識を、社内で共有する場を設けます。月1回の「副業ナレッジシェア会」を開催し、副業で学んだことを発表する。この共有が、他の社員の学びにもつながります。
鹿児島市のサービス業では、副業をしている社員が四半期に1回、「副業で得た気づき」を社内プレゼンする機会を設けています。「他の業界ではこんな工夫をしている」「こういうツールを使うと効率が上がる」——こうした情報が、本業の改善のヒントになっているそうです。
副業経験を人事評価に反映する
副業で得たスキルや経験を、本業の成長として評価に加味する。副業で新しいスキルを身につけ、それを本業で活かしている社員は、成長の意欲と能力の両面で高く評価されるべきです。
副業をイノベーションの種にする
副業を通じて社員が触れる異業種の知見は、自社のイノベーションの種になり得ます。本業だけに閉じていては生まれない発想やアイデアが、副業を通じて組織に流入する。この「越境学習」の効果は、副業制度の最大のメリットかもしれません。
九州ならではの副業・兼業の可能性
九州には、副業・兼業の可能性を広げる独自の環境があります。
- 農業・漁業との兼業:九州は第一次産業が盛んな地域。平日は会社員、週末は農業という兼業スタイルは、地域の農業を支える力にもなります
- 地域の課題解決型副業:過疎地域のまちづくり、観光振興、空き家活用など、地域課題の解決に副業として関わる。企業にとっては社員のCSR活動として、社員にとっては地域貢献の実感として、Win-Winの関係が築けます
- 温泉地・観光地でのリモート副業:九州の豊かな自然環境を活かし、ワーケーション的な副業スタイルも可能です
長崎市の建設会社では、社員が週末に地元の商店街活性化プロジェクトにボランティア兼副業として参加しています。この活動を通じて地域との関係が深まり、地元からの採用にもプラスの影響が出ているといいます。
副業・兼業制度は、「社員を縛る」のではなく「社員の可能性を広げる」制度です。社員が外の世界を見て成長し、その成長を本業に還元する。この好循環を作ることが、九州の企業の組織力を高めるのだと私は信じています。「会社の外に出て初めてわかること」が、会社の中にいるだけでは得られない価値を生む。副業・兼業制度は、そのための仕組みなのです。
九州の企業で副業・兼業制度の導入や人材戦略に取り組みたい方には、「人事のプロ実践講座」がおすすめです。
人事の最新知見を継続的に学びたい方は、人事図書館への入会もご検討ください。
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