九州の企業が管理職のプレイングマネージャー問題を解消する方法——「自分がやった方が早い」が組織を壊す
制度設計・運用

九州の企業が管理職のプレイングマネージャー問題を解消する方法——「自分がやった方が早い」が組織を壊す

#1on1#評価#組織開発#経営参画#離職防止

九州の企業が管理職のプレイングマネージャー問題を解消する方法——「自分がやった方が早い」が組織を壊す

「課長が一番忙しいんです。プレイヤーとしての仕事もやりながら、部下の管理もして、会議にも出て。結局、部下の育成には手が回っていません」

福岡市中央区の広告会社の人事部長が、管理職の現状をそう説明してくれました。私はこれまで500社以上の企業で人事に携わってきましたが、「プレイングマネージャー問題」は九州の中小企業で最も根深い組織課題のひとつだと感じています。

プレイングマネージャーとは、自らもプレイヤーとして実務をこなしながら、チームのマネジメントも担う管理職のことです。九州の中小企業では、ほぼすべての管理職がプレイングマネージャーです。人手が足りないから仕方ない——多くの企業がそう割り切っています。

しかし問題は、「プレイヤーとしての仕事」と「マネージャーとしての仕事」のバランスが崩れ、マネジメントが後回しにされていることです。目の前の業務は緊急性が高く、部下の育成や組織づくりは「後でいい」と先送りされる。結果、部下は育たず、管理職に仕事が集中する悪循環が永遠に続きます。


プレイングマネージャーが生まれる構造

人員不足の現実

九州の中小企業では、管理職専任で配置できるほどの人員余裕がないのが現実です。社員20人の会社で、課長が「マネジメントだけ」やるわけにはいかない。売上を作る営業活動も、技術的な判断も、課長自身がやらなければ回らない。

この構造的な問題は認めた上で、「どうすればマネジメントの時間を確保できるか」を考える必要があります。

「自分がやった方が早い」の罠

部下に仕事を任せるより、自分でやった方が速くて品質も高い。だから任せない。任せないから部下は育たない。育たないからいつまでも自分でやる。この悪循環が、プレイングマネージャーの最大の罠です。

熊本市の製造業の課長(45歳)は、「部下に任せると不安で、結局自分が手を出してしまう」と正直に話してくれました。しかしその結果、課長は毎月80時間の残業を続けており、体調を崩しかけています。部下は「課長が全部やってくれるから、自分で考えなくてもいい」と受身的になっています。

昇進の仕組みの問題

プレイヤーとして優秀だった社員が管理職に昇進する。しかし、マネジメントのスキルトレーニングを受けていないまま「管理する側」になるため、プレイヤー時代のやり方から抜け出せない。


プレイングマネージャー問題が組織にもたらす弊害

部下の成長が止まる

管理職が仕事を抱え込むと、部下には「やらされ仕事」しか回ってきません。チャレンジングな仕事は管理職が自分でやってしまうため、部下は「受けるだけの作業者」に留まります。成長機会を奪われた部下は、やがて「この会社にいても成長できない」と感じ、離職につながります。

組織のボトルネック化

すべての意思決定と実務が管理職一人に集中するため、管理職がいないと組織が動かない。出張中、病欠中、休暇中は業務が滞る。これは組織としての脆弱性そのものです。

管理職のバーンアウト

プレイヤーとマネージャーの二重負荷に耐え続けた管理職が、心身ともに疲弊してバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥る。長崎市のサービス業では、管理職の離職率が一般社員よりも高いという事態が起きていました。原因を調べると、過度な業務負荷による燃え尽きでした。

後継者が育たない

管理職がマネジメント業務を行う余裕がないため、次の管理職候補を育てることができない。結果、管理職が退職した際に後任がおらず、さらに上の役職者がプレイングマネージャーとして兼務する——という負のスパイラルが生じます。


問題解消のための具体的な方法

方法1:管理職の業務の棚卸し

まず、管理職が現在行っている業務を「すべて」書き出します。そして、各業務を以下の4カテゴリに分類します。

  • A:管理職にしかできない仕事(経営判断、人事評価、重要顧客対応等)
  • B:管理職がやるべきだが、部下に任せられる可能性がある仕事
  • C:部下に任せるべき仕事(管理職がやる必要がない実務)
  • D:そもそもやめるべき仕事(慣習で続けているだけの業務)

大分市の化学メーカーの課長がこの棚卸しを行った結果、自身の業務の40%がカテゴリCとDに分類されました。「こんなに無駄な仕事をしていたのか」と本人が驚き、業務の移管と廃止に着手。3ヶ月後には残業時間が月40時間削減されました。

方法2:業務委譲の計画的実行

業務の棚卸しでカテゴリBとCに分類された業務を、計画的に部下に委譲します。ポイントは「一気に委譲しない」ことです。

委譲の3ステップ

  1. まず管理職がやって見せる(部下が横で見学する)
  2. 部下がやり、管理職がチェックする(品質の担保)
  3. 部下が自律的に行い、管理職は結果のみ確認する

このステップを1業務あたり2〜4週間かけて進めます。焦って全部を一度に任せると、品質低下やミスが発生し、結局管理職が巻き取ることになります。

福岡市東区のIT企業では、課長の業務を「委譲リスト」にまとめ、3ヶ月かけて段階的に部下に移管しました。「最初は不安だったが、任せてみると部下がちゃんとやってくれる。自分が思っていた以上に部下は頼りになる」と課長は振り返っています。

方法3:マネジメント時間の「天引き」

給与の天引きと同じ発想で、管理職のスケジュールから先にマネジメントのための時間を確保します。残った時間でプレイヤー業務をやる、という順序に逆転させます。

具体的には、以下の時間を先にカレンダーに入れます。

  • 週1回の1on1ミーティング(1名あたり30分×部下の人数)
  • 週1回のチームミーティング(60分)
  • 月1回の目標進捗確認面談(1名あたり30分)
  • 週30分の「考える時間」(チームの課題や改善策を考える時間)

鹿児島市の不動産会社では、管理職の「マネジメント時間」を毎週火曜日と木曜日の午前中に固定しました。この時間帯は自分のプレイヤー業務をしないルールにし、1on1や部下の業務支援に充てています。

方法4:「任せ方」のスキルトレーニング

多くの管理職が仕事を任せられないのは、「任せ方」を知らないからです。「任せる」と「丸投げする」の違いを理解し、適切な任せ方を学ぶトレーニングが必要です。

上手な任せ方のポイント

  • 何を任せるか(ゴールと成果物の明確化)
  • どのレベルの裁量を与えるか(自由に進めていいのか、途中で相談が必要か)
  • いつまでに完了するか(期限の設定)
  • 困ったときにどうするか(相談のルール)
  • 完了したらどう報告するか(報告のフォーマット)

この5つを事前に共有してから任せれば、「丸投げ」にはなりません。管理職の「任せた後の不安」も軽減されます。

方法5:組織構造の見直し

管理職の部下の人数(スパン・オブ・コントロール)が多すぎないかを確認します。一人の管理職が10人以上の部下を直接管理しながらプレイヤー業務もこなすのは、物理的に無理があります。

部下が多い場合は、リーダー(主任・係長)を設置して中間管理の層を作ることで、管理職の負荷を分散させます。

宮崎市の食品メーカーでは、課長が15人の部下を持っていましたが、チームを3つに分けて各チームにリーダーを配置。課長はリーダー3名のマネジメントに集中する形に変更しました。リーダーに昇格した社員の成長意欲が高まると同時に、課長のプレイヤー業務の比率が80%から40%に減少しました。


経営者が変えなければならないこと

プレイングマネージャー問題の解消には、経営者の意識変革が不可欠です。

「忙しい管理職=良い管理職」という評価を変える

多くの九州の中小企業では、朝早くから夜遅くまで働いている管理職が「頑張っている」と評価されがちです。しかし、管理職の評価基準は「自分がどれだけ働いたか」ではなく「チームがどれだけ成果を出したか」で測るべきです。

管理職のプレイヤー業務比率の目標設定

経営者が管理職に対して「プレイヤー業務の比率を○%以下にする」という目標を設定する。例えば、「プレイヤー業務50%、マネジメント業務50%」という目標を掲げ、その実現に向けた支援を行う。

北九州市の機械メーカーでは、社長自ら「課長のプレイヤー比率を3年で80%から50%に下げる」という目標を宣言。そのために業務効率化ツールの導入、パート社員の増員、管理職トレーニングの実施を行いました。2年後、課長クラスのプレイヤー比率は60%まで下がり、部下の離職率も改善しました。


テクノロジーの活用で管理職の負担を軽減する

プレイングマネージャー問題の解消には、業務そのものの効率化も有効です。管理職が抱えている定型業務をテクノロジーで代替できれば、その分マネジメントに充てる時間が生まれます。

報告・連絡の効率化

日報の作成と確認、会議の議事録作成、進捗報告の取りまとめ——こうした管理業務にチャットツールやプロジェクト管理ツールを活用することで、管理職の工数を大幅に削減できます。

佐賀市の製造業では、紙の日報をチャットツールに移行し、管理職の日報確認にかかる時間を1日30分から5分に短縮しました。「たかが25分と思うかもしれないが、毎日25分、月に換算すると8時間以上。その時間を部下との対話に充てられるようになった」と課長は語っています。

定型業務の自動化

勤怠管理、経費精算、在庫管理など、ルーチンワークの自動化も管理職の負担軽減に直結します。特に九州の中小企業では、いまだに紙ベースの管理が残っている企業が多く、デジタル化による効率化の余地は大きい。

プレイングマネージャー問題は、九州の中小企業の「構造的な課題」です。しかし構造的だからといって、解消できないわけではありません。業務の棚卸し、委譲の計画的実行、マネジメント時間の確保——こうした地道な取り組みの積み重ねが、「管理職が管理職として機能する組織」を作っていくのだと私は考えています。


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