九州の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法——「いい人がほしい」から卒業し、事業が求める人材像を明確にする
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九州の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法——「いい人がほしい」から卒業し、事業が求める人材像を明確にする

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

九州の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法——「いい人がほしい」から卒業し、事業が求める人材像を明確にする

「営業が3人辞めたので、営業を3人採用したいんです。できるだけ経験のある、即戦力がほしい」

佐賀市のIT企業の経営者がそう依頼してきたとき、私は「3人辞めたから3人採用する。それは補充であって、採用戦略ではありません」と率直に伝えました。私はこれまで500社以上の企業で人事に携わってきましたが、九州の中小企業で「採用要件を経営戦略から逆算する」ということを意識的に行っている企業は、驚くほど少ない。

多くの企業で、採用要件は「欠員の補充」か「現場からの要望」で決まっています。「営業が足りない」「エンジニアがほしい」——このレベルの要件で採用活動を始めると、「なんとなく良い人」を探すことになり、結果的にミスマッチが生まれます。

採用要件を経営戦略から逆算するとは、「会社がどこに向かっているのか」「そのために何が必要なのか」「だからどんな人材が必要なのか」という順序で考えることです。この順序を踏むことで、採用は「穴を埋める作業」から「事業を前進させる投資」に変わります。

この記事では、九州の企業が採用要件を経営戦略から逆算する方法を具体的に掘り下げていきます。


なぜ「欠員補充型」の採用ではダメなのか

同じ人材を採用しても同じ結果になる

辞めた人と同じような人を採用すれば、同じような結果が繰り返される可能性が高い。辞めた理由が組織側の問題(評価制度、マネジメント、業務内容など)であれば、同じタイプの人材が入社しても再び退職するリスクがあります。

熊本市のサービス業の企業では、営業職が毎年2〜3名退職し、そのたびに「営業経験3年以上」という同じ要件で採用を繰り返していました。しかし、問題の根本は「営業職のマネジメント体制」にありました。採用要件を見直す前に、組織の課題を正確に把握する必要があったのです。

事業環境の変化に対応できない

事業環境は常に変化しています。3年前に必要だった人材と今必要な人材は異なる場合があります。欠員補充型の採用では、過去の延長線上の人材しか確保できず、変化に対応できません。

福岡市のIT企業では、3年前はWeb制作が主力事業でしたが、現在はSaaSプロダクトの開発に軸足を移しています。にもかかわらず採用要件は「Web制作の経験者」のまま更新されていませんでした。事業の方向性が変わっているのに、採用要件が追いついていなかったのです。


経営戦略から採用要件を逆算する5つのステップ

ステップ1:経営戦略の確認

まず、自社の中期経営計画や事業戦略を確認します。「今後3年で何を実現しようとしているのか」を明確にすることが出発点です。

中期経営計画がない企業でも、経営者に以下の質問を投げかけることで、戦略の方向性を引き出せます。

  • 3年後、この会社はどうなっていたいですか
  • 今後注力したい事業領域は何ですか
  • 現在の事業でどのような課題がありますか
  • 競合と比べて何を強化したいですか

福岡市中央区の広告代理店では、経営者との対話を通じて「デジタルマーケティング領域を強化し、3年で売上の40%をデジタル関連にする」という戦略が明確になりました。この戦略から、「デジタルマーケティングの実務経験者」という採用要件が導き出されました。

ステップ2:戦略実現に必要な組織能力の特定

経営戦略が明確になったら、「その戦略を実現するために、組織にどんな能力が必要か」を特定します。

例えば「九州一円への事業エリア拡大」が戦略であれば、「各県の商慣習を理解した営業力」「物流ネットワークの構築力」「新拠点の立ち上げ経験」などの能力が必要になります。

「TSMC関連のサプライチェーンへの参入」が戦略であれば、「半導体業界の品質基準の知識」「英語での技術コミュニケーション力」「クリーンルーム管理の経験」などが求められます。

ステップ3:現有人材とのギャップ分析

必要な組織能力がわかったら、現在の人材がその能力をどの程度持っているかを分析します。これは前述のスキルマップやタレントマネジメントの情報が活用できます。

ギャップには2種類あります。「既存社員の育成で埋められるギャップ」と「外部からの採用で埋める必要があるギャップ」です。すべてのギャップを採用で埋めようとするのではなく、育成と採用の最適な組み合わせを検討します。

鹿児島市の食品メーカーでは、海外輸出を強化する戦略に対して、「貿易実務の知識」は既存社員を研修で育成し、「海外営業の経験」は中途採用で確保するという方針を立てました。

ステップ4:具体的な採用要件への落とし込み

ギャップ分析の結果を基に、具体的な採用要件に落とし込みます。採用要件は以下の要素で構成します。

ポジション名と役割を明確にします。「営業」ではなく「法人向け新規開拓営業。九州北部エリアの製造業を対象に、年間売上○○万円を目標とする」というレベルまで具体化します。

Must要件(必須条件)は3つ以内に絞ります。これがないと仕事にならないという最低条件です。

Want要件(歓迎条件)は優先順位をつけて列挙します。あれば嬉しいが、なくても育成可能な条件です。

求める人物像として、スキルや経験だけでなく、行動特性や価値観も含めます。「自ら課題を見つけて動ける人」「チームでの協働を大切にする人」など。

ステップ5:採用要件の関係者合意

策定した採用要件を、経営者、配属先の管理者、人事で共有し、合意形成を行います。関係者全員が「この要件で採用する」と認識を揃えることで、選考基準のブレを防ぎます。

長崎市の造船関連企業では、採用要件を記載した「採用要件シート」を作成し、関係者全員が署名する運用にしています。このプロセスがあることで、面接時に「自分は違う基準で評価していた」という齟齬がなくなりました。


九州の経営戦略と採用要件の具体例

事例1:福岡のITスタートアップ

経営戦略は「SaaSプロダクトの開発・販売で、3年以内にARR(年間経常収益)1億円を達成する」。

必要な組織能力は「プロダクト開発力」「SaaS営業力」「カスタマーサクセス力」。

現有人材の状況は、開発チームは充足しているが、SaaS営業とCS人材がゼロ。

採用要件は、SaaS営業経験者(Must:法人営業経験3年以上、SaaSビジネスの理解。Want:SaaS営業の実務経験、ARR管理の経験)とCS担当者(Must:法人顧客対応の経験、ITリテラシー。Want:CS実務経験、SaaSの利用経験)。

事例2:熊本の製造業

経営戦略は「半導体関連のサプライチェーンに参入し、5年で売上の30%を半導体関連にする」。

必要な組織能力は「半導体業界の品質管理知識」「クリーンルーム環境の運用力」「英語での技術コミュニケーション力」。

現有人材の状況は、製造技術は高いが、半導体業界の品質規格や英語対応が弱い。

採用要件は、品質管理マネージャー(Must:製造業での品質管理経験5年以上、ISO9001の運用経験。Want:半導体業界での経験、IATF16949の知識、英語力)。

事例3:鹿児島の農業法人

経営戦略は「加工品のEC販売を開始し、2年で売上の20%をDtoC(直販)にする」。

必要な組織能力は「EC運営ノウハウ」「デジタルマーケティング力」「食品加工の知識」。

現有人材の状況は、農業と食品加工の知識は豊富だが、ECやデジタルマーケティングの経験者がいない。

採用要件は、EC事業責任者(Must:ECサイトの運営経験2年以上、デジタル広告の運用経験。Want:食品ECの経験、農業への関心、九州移住への意欲)。


採用要件を策定する際の注意点

「理想の人材」に固執しない

採用要件を明確にすることは重要ですが、すべての条件を満たす「完璧な候補者」を求め続けると、いつまでたっても採用できません。Must条件を満たしていれば、Want条件は入社後の育成でカバーできるという柔軟な姿勢が必要です。

福岡市東区の物流企業では、「物流業界の経験5年以上」をMust条件にしていましたが、該当者がほとんど見つかりませんでした。要件を「法人営業の経験3年以上」に変更し、物流業界の知識は入社後のOJTで習得してもらう方針に切り替えたところ、優秀な候補者を複数確保できました。入社後の育成計画と組み合わせることで、Must条件を緩和する余地が生まれます。

現場の「肌感覚」と「データ」を両方使う

採用要件を経営戦略から逆算するプロセスは、論理的である一方、現場の肌感覚も重要な情報源です。「データではこう見えるが、現場の実感としてはこういう人が活躍する」という声も取り入れることで、より精度の高い採用要件が完成します。

宮崎市の建設会社では、採用要件の策定に現場のベテラン社員3名を参加させました。「資格よりも、暑さ寒さに耐えられる体力と、地域の方と信頼関係を築けるコミュニケーション力が大事」という現場の声が、採用要件に反映されました。

採用チャネルと連動させる

策定した採用要件に合致する人材がどこにいるのかを考え、採用チャネルと連動させます。専門性の高い人材は転職エージェント経由が有効かもしれません。UIターン人材は地域の移住支援センターとの連携が効果的かもしれません。若手のポテンシャル人材はSNSやダイレクトリクルーティングが向いているかもしれません。

採用要件が明確であれば、「このチャネルが最も効果的だ」という判断もしやすくなります。漫然と複数の求人媒体に掲載するよりも、ターゲットに合ったチャネルに集中投資する方がコストパフォーマンスは高い。

鹿児島市の農業法人では、EC事業責任者の採用に際して、農業系のコミュニティサイトとWantedlyを組み合わせて募集を行いました。農業に関心があり、かつデジタルスキルを持つ人材という二つの条件を満たす人にリーチするための戦略的なチャネル選定でした。


採用要件の見直しと更新

年に一度の定期見直し

経営環境は変化するため、採用要件も固定的なものではなく、定期的に見直す必要があります。年度の経営計画策定に合わせて、採用要件の見直しを行うことを推奨します。

採用後の振り返り

採用した人材が期待通りのパフォーマンスを発揮しているかを振り返ることで、採用要件の精度を高められます。「この要件で採用した人がうまく活躍している」であれば要件は適切。「採用した人が期待と違った」であれば、要件自体を見直す必要があります。

久留米市の機械メーカーでは、中途採用者の入社半年後に「採用振り返りシート」を記入する運用にしています。採用要件と実際のパフォーマンスのマッチ度を検証し、次回の採用要件の改善に活かしています。


まとめ

採用要件を経営戦略から逆算することは、採用活動の質を根本的に変えるアプローチです。「誰かが辞めたから補充する」という受動的な採用から、「事業をこう進めるから、この人材が必要だ」という能動的な採用へ。

このアプローチは、大企業だけのものではありません。九州の中小企業でも、経営者との対話を通じて戦略を明確にし、必要な組織能力を特定し、現有人材とのギャップを分析し、具体的な採用要件に落とし込むことは可能です。

まずは次の採用を始める前に、経営者に「3年後、この会社をどうしたいですか」と聞いてみてください。その答えの中に、本当に必要な人材像のヒントがあります。

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