
九州の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——「求人票の先」にある情報発信が採用力を変える
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九州の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——「求人票の先」にある情報発信が採用力を変える
「求人を出しても応募が来ない。エージェントに頼んでも紹介がない。もう打つ手がないんです」
福岡市中央区の機械部品メーカーの人事担当者が、疲れた表情でそう語りました。私はこれまで500社以上の企業で人事に携わってきましたが、九州の中小企業でこの悩みを聞かない日はありません。求人媒体に掲載しても応募ゼロ。エージェントからの紹介も月に1件あるかないか。採用費だけが積み上がっていく。
しかし、同じ九州の中小企業でも、安定的に応募者を集めている会社があります。その違いの一つが「採用広報」の有無です。採用広報とは、求人票を出す前の段階で、自社の魅力や働く環境を継続的に情報発信し、「この会社で働いてみたい」と思う人を増やしていく活動です。
「うちみたいな小さな会社に広報なんて無理ですよ」——そう思う気持ちはわかります。しかし採用広報は、大企業のような予算や専任スタッフがなくても始められます。むしろ九州の中小企業のように社長との距離が近く、現場の雰囲気がダイレクトに伝わる組織こそ、採用広報の素材に恵まれているのです。
この記事では、九州の中小企業が採用広報をゼロから始めるための具体的な方法を考えていきます。
なぜ今、採用広報が必要なのか
求人票だけでは届かない時代
九州の有効求人倍率は全国平均を下回る時期もありますが、それでも中小企業にとっては厳しい採用環境が続いています。特にITエンジニア、施工管理、介護職など特定の職種では、九州でも求人倍率が3倍を超える状況です。
求人票だけで採用しようとすることは、釣り竿一本で魚を待っているようなものです。それが悪いわけではありませんが、魚のいる場所に餌を撒いておく——つまり事前に情報発信をしておくことで、応募の確率は大きく変わります。
求職者の情報収集行動の変化
今の求職者は、求人票を見た後に必ず企業の情報を調べます。コーポレートサイト、SNS、口コミサイト、note、Wantedly。何も情報が出てこない企業は、それだけで候補から外れるリスクがあります。
熊本市の建設会社では、求人サイトに掲載した直後のアクセスログを分析したところ、求職者の85%が企業名で検索して追加情報を探していたことがわかりました。しかし検索結果に出てくるのは求人票のコピーだけ。会社の雰囲気も、社員の声も、何もない。これでは応募に踏み切る材料が足りません。
採用コスト削減の可能性
採用広報に取り組むことで、中長期的に採用コストを下げられる可能性があります。九州の中小企業が人材紹介会社に支払う紹介料は、一人あたり年収の25〜35%が相場です。年収400万円の人材なら100万円前後。それが年に3人で300万円です。
採用広報を通じて直接応募が増えれば、その分のコストを抑えられます。もちろん即効性はありません。しかし1年、2年と継続することで、「あの会社、なんか面白そうだ」という認知が蓄積され、応募のハードルが下がっていきます。
九州の中小企業が採用広報を始めにくい理由
「広報=大企業のもの」という思い込み
「採用広報って、テレビCMとか大規模なイベントのことでしょう?」——九州の中小企業の経営者にこう言われることは少なくありません。しかし中小企業の採用広報は、大企業のそれとはまったく別物です。大企業は不特定多数に認知を広げますが、中小企業は「ターゲットに深く届ける」ことが目的です。
何を発信していいかわからない
「うちの会社に発信するような面白い話なんてないですよ」。これも頻繁に聞く言葉です。しかし、求職者が知りたいのは「華やかな話」ではありません。どんな人が働いているのか、日常の仕事はどんな感じか、社長はどんな人か、入社したらどんなキャリアが描けるのか。これらはすべて、中小企業が持っている「当たり前の日常」の中にあります。
宮崎市の農業関連企業では、社員のランチ風景や、畑での作業風景をスマートフォンで撮影してSNSに投稿し始めたところ、「こんな雰囲気の会社で働きたい」というDMが届くようになりました。特別なことは何もしていません。日常をそのまま切り取っただけです。
継続する体制がない
採用広報の最大の壁は、始めることではなく続けることです。九州の中小企業では、人事担当者が一人で採用から労務まですべてをこなしていることが珍しくありません。その中で定期的な情報発信を続けるのは確かに大変です。
しかし、毎日投稿する必要はありません。週に一回でも、月に二回でも、継続することが大切です。そして、人事担当者一人に任せるのではなく、社員を巻き込む仕組みを作ることで、負担を分散できます。
採用広報を始める前に整理すべきこと
自社の「採用ターゲット」を明確にする
誰に向けて発信するのかが曖昧なまま始めると、内容がぼやけます。「いい人が来てくれればいい」では、誰にも刺さりません。
具体的には以下の要素を整理します。
- どんなスキル・経験を持った人が欲しいのか
- どんな価値観やマインドの人と一緒に働きたいのか
- その人は今、どこで何をしているのか(転職活動中か、まだ転職を考えていないか)
- その人が転職先を選ぶ際に重視するポイントは何か
北九州市の物流会社では、「30代前半、前職で管理職経験があり、地元に戻りたいと考えているUターン希望者」というターゲットを設定しました。このくらい具体的になると、「何を」「どのトーンで」発信すべきかが自然と決まります。
自社の強みと弱みを正直に把握する
採用広報で陥りがちな失敗は、良いことだけを発信して実態と乖離することです。入社後に「話が違う」と感じた社員はすぐに辞めます。
大分市のIT企業では、採用ページに「残業はほぼありません」と記載していましたが、実態は月20時間程度の残業がありました。入社した社員は3ヶ月で退職し、Glassdoorに「嘘を書いている」という口コミを残しました。このような逆効果を生まないためにも、弱みも含めて正直に伝えることが大切です。
「残業はゼロではありませんが、繁忙期以外は月10時間以内です」「社内の制度はまだ整っていない部分もありますが、一緒に作っていける環境です」——このように正直に伝えることで、入社後のミスマッチを防げます。
発信チャネルを絞る
SNS、note、ブログ、YouTube、Wantedly、自社サイト……。やれることは無数にありますが、すべてに手を出すと中途半端になります。最初は一つか二つのチャネルに絞って始めることをお勧めします。
九州の中小企業には以下のチャネルが比較的取り組みやすいです。
- note:長文での情報発信に向く。社員インタビューや代表メッセージに適している
- Instagram:写真中心で視覚的に雰囲気を伝えられる。若手採用に効果的
- Wantedly:転職潜在層にリーチできる。会社の「想い」を伝えるプラットフォーム
具体的な採用広報コンテンツの作り方
コンテンツ1:社員インタビュー
最も効果的で、最も取り組みやすいコンテンツです。実際に働いている社員の声は、求職者にとって最もリアルな情報源です。
インタビューで聞くべき項目は以下の通りです。
- なぜこの会社に入社したのか
- 入社前と入社後のギャップ
- 日々の仕事内容と、やりがいを感じる瞬間
- 会社の良いところと、改善してほしいところ
- 今後のキャリアの展望
鹿児島市の食品加工会社では、社員インタビューをnoteに掲載し始めたところ、半年で直接応募が前年比で3倍に増えました。特に効果があったのは、中途入社の社員が「前の会社との違い」を語ったインタビューでした。転職を考えている人にとって、同じ立場の人の声は非常に参考になるのです。
コンテンツ2:代表メッセージ
九州の中小企業の強みの一つは、社長と社員の距離が近いことです。社長が自分の言葉で会社の方向性や社員への思いを語る記事は、大企業には作れないコンテンツです。
ただし注意点があります。「当社は〇〇を目指しています」という公式なメッセージではなく、社長の人柄が伝わるような内容にすることです。創業のきっかけ、苦労した時期のエピソード、社員に対して普段思っていることなどを率直に語ってもらいます。
長崎市の造船関連会社では、社長が「なぜ造船なのか」を語ったnote記事が5,000PVを超えました。社長の言葉に共感した若手エンジニアから応募があり、実際に採用につながったそうです。
コンテンツ3:仕事の裏側・日常の風景
工場の朝礼、オフィスの休憩時間、社内イベント、勉強会。日常の一コマを切り取った写真や短い文章は、会社の「空気」を伝えるのに効果的です。
佐賀県鳥栖市の物流倉庫では、毎週金曜日に「今週のひとコマ」としてInstagramに写真を投稿しています。特にバズるわけではありませんが、採用面接に来た応募者の多くが「Instagramを見て雰囲気がわかったので応募しました」と話すそうです。
コンテンツ4:職種紹介・一日の流れ
求職者が最も知りたいのは、「実際に入社したら、毎日何をするのか」です。求人票の「業務内容」の欄では伝わりきらない情報を、時系列で丁寧に紹介します。
福岡市の広告代理店では、営業職の一日を「8:30 出社→9:00 チームミーティング→10:00 クライアント訪問→12:00 博多駅近くでランチ→13:30 企画書作成→15:00 社内打ち合わせ→17:00 資料整理→18:00 退社」と時間軸で紹介する記事を作成しました。「博多駅近くでランチ」という一文が、福岡で働く具体的なイメージを求職者に持たせる効果がありました。
採用広報を社内で推進するための体制づくり
人事一人に任せない
採用広報を人事担当者一人の仕事にすると、必ず行き詰まります。コンテンツのネタが尽きる、忙しくて投稿が途絶える、写真を撮る余裕がない。これは仕組みの問題であり、個人の能力の問題ではありません。
効果的な方法は、各部署に「採用広報サポーター」を一人ずつ置くことです。大げさな役割ではなく、月に一回、部署の近況や面白かった出来事をSlackやメールで人事に共有してもらうだけです。
熊本県の半導体関連企業では、各部署から若手社員を一人ずつ「広報委員」に任命し、月一回の30分ミーティングでネタ出しを行っています。この仕組みにより、人事担当者が一人で考えるよりも多彩なコンテンツが生まれるようになりました。
経営層の理解を得る
採用広報は即効性がないため、経営層から「それ、意味あるの?」と言われやすい取り組みです。理解を得るためには、採用コストの数字を示すことが効果的です。
「現在の採用単価は一人あたり80万円。年間5人採用で400万円。採用広報を通じて直接応募が2人増えれば、160万円のコスト削減になります」——このように経営数字で語ることで、投資対効果を理解してもらいやすくなります。
無理のないスケジュールを組む
最初から「毎日投稿」「週3本記事公開」などのハードルを設けると続きません。最初は月2回の投稿から始めて、慣れてきたら頻度を上げるくらいの心構えで十分です。
福岡市の人材紹介会社では、最初の3ヶ月は月1回のnote記事投稿だけに絞りました。ネタの選定、執筆、校正のプロセスを確立してから、4ヶ月目以降に月2回に増やし、半年後にはInstagramも併用するようになりました。この段階的なアプローチが、継続の鍵だったと担当者は振り返っています。
採用広報の効果測定
定量指標
採用広報の効果を数字で測るためには、以下の指標を追跡します。
- 自社サイト・採用ページへのアクセス数
- 各コンテンツの閲覧数(PV)・読了率
- 直接応募の数(エージェント経由ではない応募)
- 面接時に「何で知りましたか」と聞いた際の回答
- 採用単価の推移
すべてを精密に測る必要はありません。特に初期段階では、「面接時に何で知りましたかを必ず聞く」という一つのアクションだけでも、採用広報の効果を実感できるようになります。
定性指標
数字には表れにくいが、確実に変化する部分もあります。
- 応募者の質の変化(自社への理解度が高い応募者が増える)
- 面接での会話の質の変化(「御社のnoteを読んで共感しました」という声が出る)
- 社員のモチベーション変化(自社の情報発信を見て誇りを感じる)
- 地域での認知度向上(取引先や地域住民から「最近よく見かける」と言われる)
宮崎県の建設会社では、採用広報を始めて1年で数字上の大きな変化はありませんでしたが、面接に来る応募者の「会社への理解度」が明らかに上がったと人事担当者は話しています。以前は「求人票の内容しか知らない」応募者がほとんどでしたが、今は「noteの記事を読んで、現場の雰囲気がわかったので応募しました」という人が増えた。この変化は、数字以上に大きな意味があります。
九州ならではの採用広報のポイント
地域色を武器にする
九州の企業が東京の企業と同じ採用広報をしても意味がありません。九州ならではの魅力——食の豊かさ、自然環境、人の温かさ、生活コストの低さ、通勤のしやすさ——を積極的に発信することが差別化につながります。
鹿児島県霧島市の温泉リゾート運営会社では、「霧島で暮らしながら働く」というテーマで、社員の休日の過ごし方(温泉巡り、登山、地元の居酒屋)を紹介する記事シリーズが好評でした。仕事の内容だけでなく、「ここで暮らす幸せ」を伝えることで、UIターン希望者の心を掴んだのです。
Uターン・Iターン層への訴求
九州の中小企業にとって、Uターン・Iターン人材は重要なターゲットです。都市部で経験を積んだ人材が地元に戻りたい、あるいは九州で暮らしたいと考えるタイミングに、情報を届けておくことが大切です。
そのためには、「九州で働くこと」の具体的なメリットを数字で示すことが効果的です。家賃の比較、通勤時間の比較、子育て環境の充実度など、東京との違いを具体的に伝えることで、漠然とした「地方で暮らしたい」という気持ちを、「この会社に応募したい」という行動につなげられます。
地元メディア・コミュニティとの連携
九州には地域に根ざしたメディアやコミュニティが数多くあります。地元新聞社のウェブメディア、商工会議所のニュースレター、地域のビジネス交流会、大学のキャリアセンター。これらとの連携は、大きなコストをかけずに情報を届ける手段になります。
長崎県佐世保市の造船会社では、地元の工業高校と連携し、「職場見学+社員座談会」を年2回開催しています。その様子をSNSで発信することで、高校生だけでなくその保護者の目にも留まり、「あの会社はちゃんとした会社だ」という信頼感が地域に広がっていきました。
よくある失敗とその対処法
失敗1:更新が止まる
最も多い失敗です。最初の1〜2ヶ月は意気込んで投稿するが、3ヶ月目から更新が途絶える。対処法は、最初からハードルを下げておくことと、「更新カレンダー」を作って見える化することです。
失敗2:自画自賛になる
「当社は素晴らしい会社です」というトーンの発信は、求職者に見透かされます。良いことだけでなく、課題や改善途中の取り組みも正直に伝えることで、信頼性が上がります。
失敗3:ターゲットが曖昧
「みんなに見てもらいたい」と思って発信すると、結局誰にも刺さらない内容になります。採用ターゲットを一人の人物像にまで具体化し、その人に向けて書くつもりで発信することで、内容が研ぎ澄まされます。
失敗4:炎上を恐れて当たり障りのない内容になる
リスクを恐れるあまり、「社員旅行に行きました」「忘年会をしました」というイベント報告だけの発信になってしまうケースがあります。これでは会社の魅力が伝わりません。リスクを完全にゼロにすることはできませんが、事前にチェック体制を整えておけば、ある程度踏み込んだ内容でも安心して発信できます。
採用広報を始める具体的なステップ
ここまでの内容を踏まえて、九州の中小企業が明日から始められるステップをまとめます。
ステップ1:採用ターゲットを定義する(1週間)
経営者と採用担当者で話し合い、「どんな人に来てほしいか」を具体化します。スキル、経験、価値観、居住地、年齢層、転職の動機。できるだけ具体的に描きます。
ステップ2:発信チャネルを決める(1日)
noteかInstagramか、あるいは自社サイトのブログか。最初は一つに絞ります。ターゲットの年齢層や職種に合わせて選びます。
ステップ3:最初のコンテンツを作る(2週間)
社員インタビューか代表メッセージを一つ作ります。最初は完璧を目指さなくて大丈夫です。「読める」レベルであれば十分です。社内で2〜3人にレビューしてもらい、事実誤認やプライバシーの問題がないかだけ確認します。
ステップ4:公開して反応を見る(1日)
記事を公開したら、社員にも共有します。社員がSNSで拡散してくれれば、初期のリーチが広がります。
ステップ5:月2回のペースで継続する(3ヶ月)
まずは3ヶ月、月2回のペースで続けてみます。3ヶ月続けば、コンテンツ作成のプロセスが定着し、ネタ出しのコツもつかめてきます。
ステップ6:効果を振り返り改善する(3ヶ月後)
3ヶ月分のコンテンツの反応を振り返り、どんな内容が読まれたか、応募者の行動に変化があったかを確認します。その結果を踏まえて、次の3ヶ月の方針を決めます。
まとめ
採用広報は、九州の中小企業にとって「お金をかけずに採用力を高める」最も有効な手段の一つです。しかし、それは一夜にして成果が出るものではありません。求人票を出して応募を待つ「狩猟型」の採用から、情報発信を通じて求職者との関係を育てる「農耕型」の採用へ。この転換には時間がかかります。
しかし、九州の中小企業には大企業にはない強みがあります。社長との距離の近さ、社員同士の温かい関係性、地域に根ざした独自の文化。これらは、加工せずにそのまま発信するだけで、十分に魅力的なコンテンツになります。
大切なのは、完璧を目指さずに始めること。そして、小さくても続けること。3ヶ月後、半年後、1年後——振り返ったときに「あのとき始めてよかった」と思える日が必ず来ます。
私が九州の企業に関わる中で感じるのは、「発信しないのはもったいない」ということです。素晴らしい仕事をしている企業が、知られていないだけで採用に苦しんでいる。その状況を変えるための第一歩が、採用広報なのです。
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